企業にとって取引先の財務状況は自社の経営に大きく関係します。取引先の財務状況が悪化している場合、本来受け取れるはずだった代金を受け取れない可能性もあります。
このようなリスクを回避するために有効なのが、与信調査です。与信調査を実施することで取引先の状況や経営者の素性などを判断できます。
この記事では与信調査や放置するリスク、調査のポイントなどを解説します。
与信調査とは
与信調査とは取引を開始または継続する際に、取引先の信用力や財務状況、経営状況などを確認し、支払い能力やリスクを評価する調査です。企業が他社や個人とビジネス関係を結ぶ際に、与信調査は不可欠なプロセスです。企業が将来的な損失を回避し、健全な経営を維持するために行われます。
与信調査は企業や個人の経済的な信頼性を判断するための重要なツールであり、特に長期的な取引や大規模な取引を行う際には、その重要性が増します。適切な与信管理を行うことで、企業はリスクを最小限に抑え、安全かつ安定した取引を実現することができます。
与信調査が必要な理由
与信調査が必要な理由として以下が挙げられます。
- 自社のリスク管理
- 資金回収の確実性
自社のリスク管理
与信調査を行うことで、取引先が信頼できるかどうかを事前に評価することができます。信用力の低い取引先との取引は将来的に未払いのリスクを引き起こしかねません。そのため、自社のリスク管理という観点から与信調査が必要です。
資金回収の確実性
与信調査により、取引先が財務的に安定しているかや負債がないかなどを確認できます。そのため、与信調査は資金回収の確実性を高めるためにも必要です。また、健全な取引関係を維持するためにも与信調査が欠かせません。取引先の財務状況を把握することで、相手企業の信頼性を把握し、ビジネスの安定性を保つことが可能です。
与信調査をおろそかにするリスク
与信調査をおろそかにしてしまうと次のようなリスクにつながりかねません。
- 売掛債権の未回収リスク
- キャッシュフローの悪化
- 連鎖倒産のリスク
売掛債権の未回収リスク
与信調査を怠ると、売掛債権の回収が困難になるリスクが高まります。相手企業の財務状況や支払い能力を事前に確認していない場合、未払いが発生した際に迅速に対処できず、回収が困難になることがあります。売掛債権が回収できなかった場合、黒字倒産につながりかねません。
黒字倒産とは、商品を販売し利益が出ているものの、人件費など支払いに必要な資金が不足し、倒産してしまうことです。BtoB企業の場合、請求書払いが一般的です。そのため、売掛金入金よりも先に経費を支払うタイミングが訪れることがあります。売掛債権が未回収の場合、必要な資金を用意できず黒字倒産につながります。
キャッシュフローの悪化
取引先の信用力が低い場合、支払いの遅延や未払いが発生する可能性があります。これにより、企業のキャッシュフローが悪化し、運転資金の不足や経営の停滞を引き起こすリスクが生じます。健全なキャッシュフローを維持するためには、事前に相手企業の信用を確認することが重要です。
連鎖倒産のリスク
ひとつの企業が倒産すると、取引先企業にも大きな影響を与える可能性があります。特に取引先が倒産し債務不履行となる場合、他の関連企業にも連鎖的に倒産リスクが波及することがあります。与信調査を実施していない場合、自社が連鎖倒産に巻き込まれるリスクが高まります。
与信調査の方法は大きく4つ
与信調査の方法にはいくつかのアプローチがありますが、代表的なものは以下の4つです。
- 社内調査
- 直接調査
- 外部調査
- 依頼調査
それぞれの方法には特徴があり、目的や状況に応じて最適な調査手段を選択することが求められます。
社内調査
社内調査は自社内で行う与信調査です。過去の取引実績や財務データ、支払い履歴など、既に自社が持っている情報を活用して、取引先の信用力を評価します。コストを抑えつつ、自社で対応できる範囲で実施されることが多いです。
直接調査
直接調査は取引先企業と直接やり取りをし、財務情報や取引履歴などを確認する方法です。企業訪問や面談を通じて、詳細な情報を入手し、信用評価を行うことができます。具体的な質問や確認事項を設定できるため、信頼性の高い情報が得られることが特徴です。
外部調査
外部調査は専門の信用調査機関やデータベースを利用して、取引先企業の信用状況を調査する方法です。外部の専門業者が持つデータやネットワークを活用することで、より広範な情報を収集し信用力を評価できます。これにより取引先の詳細な情報を得ることが可能となります。
依頼調査
依頼調査は信用調査会社などの外部機関に調査を依頼する方法です。専門家に依頼することで、より詳細かつ専門的な調査が行われ、リスクの正確な評価が可能です。また、依頼調査はコストがかかりますが、非常に信頼性の高い情報が得られるため、リスクの高い取引の場合に有効です。
与信調査のポイント
与信調査は取引先の信用力や支払い能力を評価し、取引におけるリスクを軽減するために行われます。特に長期的な取引や大規模な契約を結ぶ前には、リスクを避けるために実施すべき重要なプロセスです。このような与信調査を実施するにあたっては次のようなポイントを押さえておきましょう。
- 取引先に支払能力があるか
- 信頼できる経営者であるか
支払能力があるか
与信調査において最も重要なポイントのひとつは、取引先に十分な支払能力があるかどうかを確認することです。これには、相手企業の財務状況、過去の支払い履歴、負債状況などの詳細な調査が含まれます。取引先が安定した収益を上げており、健全なキャッシュフローを維持しているかを確認することは、取引における未払いリスクを減少させ、将来的な損失を防ぐために重要です。
信頼できる経営者であるか
取引先企業の経営者の信頼性も与信調査の重要な要素です。経営者の過去の経歴や行動が会社の信用力に直接影響することがあります。そのため、経営者が誠実で信頼できる人物であるかどうかを確認することで、将来的なトラブルや不正のリスクを回避することができます。企業の業績だけでなく、経営者個人の信用度もチェックすることが望ましいです。
与信調査を依頼するメリット
与信調査は自社で実施可能です。自社で与信調査を実施する場合、コストを抑えられるというメリットがあります。しかし、与信調査は専門業者への依頼も可能です。
与信調査は自社で行うことも可能ですが、外部の専門機関に依頼することで得られるメリットが多くあります。ここでは与信調査を依頼するメリットとして以下を解説します。
- 自社の負担を軽減できる
- 客観的な意見を得られる
自社の負担を軽減できる
与信調査を外部に依頼することで、自社のリソースを大幅に節約できます。調査には多くの時間と労力がかかり、専門的な知識も必要となるため、自社で行う場合、他の業務に支障をきたすことがあります。専門機関に依頼することで、調査の負担を軽減し、リスク管理に集中できる体制を整えることができます。
客観的な意見を得られる
専門の与信調査会社に依頼することで、第三者としての客観的な意見を得ることができます。自社では判断しづらい場合や、取引先との関係を損なわずに調査を進めたい場合に、外部の専門家による調査が非常に役立ちます。こうした調査結果は、取引先との交渉や契約の判断材料としても有効です。
与信調査の依頼先の選び方
与信調査の依頼に対応している業者は数多くあります。そのため、与信調査の依頼先を選ぶ際は次のようなポイントを押さえておきましょう。
- 調査価格が適切か
- 希望する納期で対応可能か
- 報告書が分かりやすいか
- 総合信用調査か専門信用調査かで使い分ける
- 海外の取引に対応しているか
調査価格が適切か
与信調査を依頼する際に最初に確認すべきポイントは、調査の価格が適切かどうかです。調査内容や範囲によって価格は変動しますが、あまりに低価格な場合、調査の精度や詳細さが不足している可能性があります。一方、高価格であっても、それが十分な価値を提供しているかどうかを見極めることが重要です。コストと品質のバランスをしっかりと確認しましょう。
希望する納期で対応可能か
ビジネスのスピードが求められる現代において、調査の納期も重要なポイントです。特に、急ぎの取引や重要な契約前に与信調査を依頼する場合、希望する納期で対応可能な調査会社を選ぶ必要があります。調査期間が長すぎると、取引のタイミングを逃してしまう可能性もあるため、迅速な対応が可能な会社を選ぶことが望ましいでしょう。
報告書が分かりやすいか
与信調査の結果を元に経営判断を行うためには、報告書が分かりやすく、かつ詳細であることが求められます。複雑な専門用語ばかりではなく、要点が整理されており、具体的なリスクや提案が含まれているかどうかが重要です。調査結果がしっかりと理解できなければ、適切な経営判断を行うことが難しくなるため、報告書の質にも注目する必要があります。
総合信用調査か専門信用調査かで使い分ける
与信調査を請け負う調査会社は大きく総合信用調査会社と専門信用調査会社に分かれます。それぞれの特徴は次のとおりです。
- 総合信用調査:地域・業種を問わず一般的な信用調査に対応している
- 専門信用調査:特定の地域や業種を専門としている
一般的に専門信用調査会社の場合、調査コストがかさんでしまいます。しかし、専門信用調査会社はより詳細な調査が可能です。
海外の取引に対応しているか
企業によっては、海外に取引先を抱えていることもあります。海外の取引先の与信調査を実施するのであれば、国外の企業の与信調査に対応している会社を選びましょう。海外の取引先の情報を把握するには言語や情報網の違いがハードルになります。そのため、海外の企業の与信調査に特化している信用調査会社に調査を依頼しましょう。
探偵への依頼もおすすめ
与信調査は調査会社だけでなく、探偵へも依頼可能です。探偵は一般的な方法では届かないような、公開情報以外の情報も収集可能です。ここでは探偵に与信調査を依頼するメリット、選ぶ際のポイント、依頼すべきタイミングなどを解説します。
探偵に与信調査を依頼するメリット
探偵に与信調査を依頼するメリットは次のとおりです。
- 公開されていない情報にもアクセスできる
- スピーディに調査できる
- 反社チェックもできる
公開されていない情報にもアクセスできる
探偵に与信調査を依頼するメリットのひとつは、公開されていない情報にもアクセスできる点です。探偵は公に利用できる情報だけでなく、独自のネットワークや調査技術を駆使して、一般には知られていない重要な情報を収集することが可能です。これにより、通常の信用調査では見つからないリスクや問題点を発見できることがあります。
スピーディに調査できる
探偵に与信調査を依頼することで、迅速な調査対応が可能です。与信調査は、取引のタイミングに応じて急いで対応する必要がある場合もあります。探偵は効率的に情報を収集し、短期間で結果を提供する能力を持っているため、スピーディに調査結果を得ることができ、ビジネスのスムーズな進行をサポートしてくれるでしょう。
反社チェックもできる
探偵は反社チェックも含めた幅広い調査に対応できるのもメリットです。反社会的勢力との関わりがあるかどうかを確認することは、コンプライアンスや企業リスク管理の観点から欠かせません。
実際、国では反社会的勢力との関係を断つための指針として『企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針』を策定しています。(※1)同指針では反社会的勢力による被害を防止するための基本原則として取引を含めた一切の関係遮断を設けています。指針に反して反社会的勢力と関係を続けてしまうと、自社の信頼が低下しかねません。
探偵の調査能力を活用すれば、取引先が反社会勢力に関与していないか、深い調査が可能になるため、自社にリスクが発生する可能性を抑えられます。
(※1)法務省「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」
与信調査を依頼する探偵の選び方
与信調査を探偵に依頼するのであれば、次のような観点から依頼先を選びましょう。
- 与信調査を得意としているか
- 料金体系が分かりやすい
与信調査を得意としているか
探偵にはそれぞれ得意分野があり、浮気調査や行動調査を専門とする探偵もいれば、与信調査や企業の信用調査に強い探偵もいます。与信調査を得意としているかどうかは、調査実績や年数が経っているかどうかを確認しましょう。調査実績が豊富な探偵であればより高い専門性が期待できます。
料金体系が分かりやすい
探偵に調査を依頼した場合、費用は依頼先によって異なります。一般的に探偵の料金は調査期間と比例します。複雑な料金体系の企業の場合、調査終了後に追加料金の請求など、トラブルになりかねません。そのため、分かりやすい料金体系の探偵に依頼しましょう。
探偵に与信調査を依頼すべきタイミング
探偵に与信調査を依頼すべきタイミングは次のとおりです。
- 新規取引を開始する段階
- 大規模な契約や長期の取引を始める段階
- 取引先に不信感を抱いた段階
新規取引を開始する段階
初めての取引相手とビジネスを行う際、相手の信用状況が不明なケースが多いため、与信調査を依頼するのが適しています。事前に相手の経営状況や支払い能力を確認することで、未払いリスクの回避につなげます。
大規模な契約や長期の取引を始める段階
探偵による与信調査は、高額な取引や長期間の契約を結ぶ際にも有効です。相手企業の信用状況を詳しく調査することで、リスクを回避します。
取引先に不信感を抱いた段階
取引先の経営状況に不安を感じたり、過去に支払いの遅延があった場合も、早めに探偵に与信調査を依頼しましょう。放置していると、債権未回収のリスクにつながりかねません。被害が大きくなる前に探偵による調査を実施しましょう。
探偵による与信調査で自社のリスクを軽減しよう
与信調査とは取引先の信用力や財務状況などを調査する方法です。与信調査は初めて取引を開始する際や、大口の取引を実施する際などに実施されます。与信調査を実施すれば、キャッシュフローの悪化や売掛債権の未回収リスクの回避が可能です。
与信調査は専門の調査会社だけでなく、探偵への依頼も可能です。探偵であれば取引先が反社会的勢力と関わりがないかも調査できます。
アイヴィ・サービスでは企業調査にも対応しています。取引先の状況が気になる、新規でやり取りをする取引先の財務状況が知りたいという場合は、ぜひご相談ください。